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カミカゼを照らせ

どっかのペイガンメタラー食人蛮族の話です

努力すれば集中できると思っていたのは害だったのかもしれない

「黄金の雲」現象というのがあります。私が作りました。どういう現象かというと、それはじっと集中しなければいけない作業をやってる時に起きます。

例えば勉強をしなくてはいけないときに、ノートを開いて問題練習をし始めるとか、本を読んでいるとか、絵を描いているとか、仕事中でもなんでもいいです。15分から30分程度、タイミングと内容にもよりますが、あなたは作業に集中していることができます。しかしその後、あなたは脳の視界の端に何かが動いているのを見つけます。もちろんそれは妄想なので、あなたはそれを振り払って作業を続けようとします。ところがそれはどんどん近づいてきて、ついにあなたは黄金の雲の向こうから、筋肉を波打たせて飛ぶように走る翼のある馬たちに牽かれた白銀の車体のチャリオットの軍団がやってくるのを見て、そして反対側からは異形の怪物たちーーいや、それはおどろおどろしいけだものを模った船首像で、その船の上には、殺戮への期待に目を輝かせたむさ苦しい戦士たちがひしめいていますーーが、地底の海を抜けて地表を裂ききりもなく湧き上がってくるのを見つけます。しまいにはかれらはあなたの目の前で乱戦を開始し、かれらの血と千切れた肉片、飛び散る脂肪の臭いを嗅いで、あなたはそれに魅入られ肉体の動きの方は完全に止まり、脳もその壮大な戦闘を上演することにかかりきりになります。

さてやがてその戦場は死骸で埋まり、スペクタクルは終わってあなたはようやく我に帰ることが許されます。時計を見ると、あなたが作業を完全に停止して外面的には放心状態に陥ってから、既に30分とか1時間が経っています。ドラマチックな場面の後であなたは興奮しており、先程までの凄惨な戦いの様子を頭から追い出しつまらない作業に戻って集中するのは難しくなっています。ともかく作業に戻ろうとしますが、あなたは既に視界の端には再び別の動きがあるのに気づいていますーー。

 

この黄金の雲を、おれはずっと、皆が言うように、努力すれば追い払うことができるんだと思っていたし、それができなくて惨めな結果ばかりだしているのは、おれの努力不足なんだと思っていた。しかし最近になって、どうも皆のところにはこんな喧しい黄金の雲なんかちっとも来ていないらしいということに気づいて、なんだか何もかも虚しくなってしまった。お前らおれのことを無能だと言うがおれの苦労のなにがわかるっていうんだ。いいか、どうせ一度くらい黄金の雲を追っ払ったところで、もう書いたとおり、もう次の奴らが控えている。今度はなんだ、見知らぬ真空の果ての燃え上がる恒星の表面で死闘を繰り広げて堕ちていく船か、それとも神の元へ逝くぞと叫んで喜んで死んでいく半裸の男たちなのか。

 

だがもしかしたら、もっと目立って無能だったほうがまだマシだったのかもしれない。おれは長年どうにか集中する努力をしてきたというよりは、むしろ周りに気が散っていたり、実は全く無能なのだということを悟られないようにする術が身についただけだったと思う。ところがそのせいで、皆と同じ程度のことが当たり前にできると思われてしまった。そうじゃないんだよ、ずっと必死なんだよ。あの黄金の雲を追い払ったり、自分にとってはつまらないことをどうにか記憶しようとしたりすることは、いつも何かもっと重要なことと引き換えだった。そろそろ終わりにしたい。でももう逃げられないな?ならあんな努力無駄だったどころか、引き換えに捨ててきた重要なことのために、ただの傷跡になっただけなのか?

 

そんなこと大した事ないでしょ?それくらいできるでしょ?なんて言葉もう聞きたくない、今度そんなことをいいやがったら、お前の顔面の皮をこの手で引き剥がして、お前が泣き叫ぶ声を聞きながらそれを喰らってやりたい。そしておれはお前らに、蛮族よろしく罵られ、正義の名のもとに吊り上げられて、私の目は輝く雲でなく鈍い虚無を映すだけになるのだ。

 

ああ、書いているだけで泣きそうだし、おれはただあの黄金の雲の向こう側で生まれたかった。こちら側ではなくて。だからそうできないならせめてずっと眠らせてほしい、ならばもう考えることもなく死んだように、迷惑かけることもなく、落ち着いていられるから。